2015年09月15日

事はそう単純ではない、「国勢調査員はサボっている!」の批判に物申す

2015年は、5年に一度行われる、国勢調査の実施年。
今年から、PCやスマートフォンなどを使ってインターネット経由での回答も可能になり、『スマート国勢調査』などとも呼ばれている。

登録手続きや調査回答が簡便になる一方で、別の問題が今、巷を騒がせている。
調査にあたっては、各地域で選ばれた『国勢調査員』なるスタッフが、管轄エリアの各世帯に調査用紙を配って歩く。この調査用紙には、固有のIDとパスワードが記載されており、回答内容と紐づくようになっている。

原則的には、各世帯に手渡しで渡すべきとなっているこの調査用紙が、さまざまな場所で『郵便ポストに無造作に投函されている』というのが、騒動の内容だ。

「セキュリティ意識の欠如だ」
「サボっている国勢調査員が多すぎる」

などといった意見が、ネットを中心に各所で飛び交っている。

この批判に、私は敢えて反論したい。
同じ調査を担当する、国勢調査員の一人として。

稼働時間のほとんどない調査員もいる

前述の通り、国勢調査の調査用紙は、原則として手渡しである。

ただし、訪問した時間に居住者が在宅している保証はない。
『○日○時にまたお伺いします』という紙を投函したところで、その時間に在宅してくれている保証は、どこにもない。

もっというと、平日に動けない人……すなわち、私のように帰宅時間が深夜に及ぶような人は、必然的に休日に作業せざるを得ない。調査用紙の配布だけで何週間もかけるわけにはいかないから、せいぜい2回訪問して不在であれば、郵便受けに投函するよりほかない。これは、自治体から指導された内容でもある。

動静っ中年』でも書いたが、調査員を担当する多くの方は、高齢者や主婦など、日常的に在宅している方が多い。

通常であれば、そのような人に作業をお願いするべきなのだが、町内会が私にこの作業を依頼してきたのは、『インターネットによる国勢調査』という部分に高齢の役員陣が尻込みしたのではないか、とも邪推している。あるいは以前に町内会でのSNS導入を提案(見事に却下)したことを慮ってのことか。

調査員にとって鬼門の集合住宅

実際、私は国勢調査員として、約80軒ほどのお宅を回った。

実際に手渡しできたのは、約半数。
裏を返せば、残りの半数は、郵便ポストへの調査用紙投函を余儀なくされている。

とりわけ、集合住宅での調査は、面倒極まりない。
最近のマンション・アパートは、建物入口の所にインターホンが集約されており、住人の許可なくして中に立ち入ることはできない。ましてや、一軒について入場を認められたからといって、その余勢を駆って他のお宅を訪問しようものなら、怪しまれること、このうえなし。かといって、一軒一軒、出たり入ったりを繰り返していたら、いつになっても終わりやしない。だから、在宅していても「郵便受けに投函しておくので、あとで確認のうえ、調査にご協力ください」としか言いようがないのである。

さらには、集合住宅の不在率も顕著だ。
古めのアパートでは、各世帯のドア横のチャイムを押すことになるのだが、中から生活音が聞こえ、明らかに在宅していることが分かっていても、平然と不在を装われてしまうケースは、少なくない。ニートなのか、はたまた対人恐怖症なのかは分からないが、外界とのコミュニケーションを遮断している人は、思っていたよりも多いと感じた。

集合住宅のように、全世帯のポストが一か所に集約されているような場所を目の当たりにすると、全部適当にえいやっと投函したくなる気持ちも、ワカランではない。
だが、そこは最低限、在宅しているか、そもそも空室ではないか、といった点を確認し、最後の手段として『外から取り出しにくい』形でポストに投函する義務が、調査員にはある。これもまた事実だ。

人の冷たさと温かさを知る

対面できない状況でこれなら、対面さえできればいいのかというと、事はそう簡単ではない。
実際に世帯の方にお会いできても、一筋縄ではいかないこともある。

国勢調査といえば、国が行っている施策の一環で、知名度もそれなりにあると思っていたのだが、現実は厳しかった。

「娘から余計なものを受け取るな、と言われている」(ご高齢のおばあさん)
「コクセイチョウサってなんですか?」(30代と思しき父親)
「よく分からないんでご協力できません」(20代くらいの女性)

国勢調査員は、身分を証明するための証明書、および腕章の携行を義務付けられている。
しかも国のお墨付きなのだから、素性と調査の意義さえ理解してもらえれば、さほど苦労することはないと思っていたのだが、甘かった。

自分の説明能力を憂うべきか、あるいは人徳(人間力)のなさを呪うべきか。女性にとっては、男性調査員に不安を抱くということもあるかもしれない。

下手をすれば、人間不信に陥りかねない、これらの展開。
だが、調査に協力的な方も、中にはいらっしゃる。

国勢調査の趣旨を理解してくださっていたり、苦労をねぎらっていただいたり、お礼をいただく、というようなことも。自分も以前に調査員をしたので、その大変さは理解できる、ぜひ頑張ってほしいと励まされたこともあった。近隣でこういった方々が何か困っていたときには、全面的に力を貸してあげたいと、強く思う。

何を信頼し、何を任せたらよいのか

ではこの問題、事態打開に向けて、どうすればいいのか?

すべての調査用紙を郵送で送りつけるという手が考えられるが、そもそも国が持っている情報が、調査時点での最新データではない。そのため、新設された住居、新たに入居した、あるいは退去した人がいるはずで、どうしても調査時点での居住実態を把握する必要には迫られる。

そうなると、全国に流通網を持つ業者、つまりは各種宅配業者か、あるいは日本郵政あたりが妥当な線となる。ネットで回答できれば、それに越したことはなし、利用できない環境の方なら、集荷を依頼すればよいだけの話だ。

問題はコストと情報管理。
前者は入札で、後者は機密保持契約の拘束力で……と言うのは簡単だが、実際には難しいのだろうな。紛失や情報漏えいが起きたときの責任分限でも揉めそうな気がするし、そもそもこなせる体力を持つ企業が限られるだけに、手を上げる業者がいなくなったら、ハイそれまでよ。

そこには、国民の税金が投入されるわけで、調査員ががんばろうが、業者に任せようが、結局は国民(納税者)の理解が不可欠となるのは、間違いない。

ぜひとも国勢調査にご協力を

この国勢調査、インターネット回答だけで終わればいいのだが、実際にはそうはいかない。
調査員の業務としては、このあと、インターネット回答の催促、ネットが使えない世帯への郵送物の配布、配布世帯情報のまとめ、およびそれらの役所への提出……と、この秋の週末は、ほぼこれで潰れる勢いだ。

一応、国勢調査員の活動については報酬が出るのだが、なけなしの休日を犠牲にしてまでやる作業ではない。引き受けた以上、今回は責任を持って遂行するが、次回以降は、謹んで、ほかの『稼働に余裕のある』方にお譲りしたい。

各地の国勢調査員の状況から察する限り、確かにサボっている、あるいは手を抜いている人もいるのだと思う。皆が同列に受け止められてしまうことを考えると、そういった手抜きは、ぜひやめていただきたいと、切実に願う。

「サボっている、と糾弾するくらいならお前がやってみろ」などと言うつもりはない。
ただ、調査における現実、調査員が活動しづらい実態も、いろいろあるのだということを、皆さんにはぜひご理解いただき、調査員の方が訪問された際には、その苦労を察して、できる範囲で協力してあげていただきたい。

今回の騒動で浮き彫りになった最大の問題は、調査員の対応などではなく、調査員が訪問してもまともに調査に協力してもらえない、あるいは信用してもらえない、日本の治安、および互助精神の低下にあるのかもしれない。

世の国勢調査員の皆さん。
ともにがんばりましょう。

posted by たいにー at 23:55 | Comment(2) | TrackBack(0) | 時事ネタ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
初めましてこんにちは〜
調査員ご苦労様でした。
我が家も国勢調査 主人が町会より頼まれて引く受けましたが担当区域によっての違いもありますが
真面目な主人居留守とわかっていても何度も〜訪問でした。
記事を読ませてもらいしっかりした文面に頭の良さが
伝わります。
人の冷たさと温かさを知る、ほんと主人も申しておりました。
調査員の最後の仕事
10月23日役所に届けました。
書類等々箱に詰めて、丁寧な仕事に褒めてもらえたと
苦労が報われやり遂げた達成感に苦労も吹っ飛んだみたいです。
Posted by hana at 2015年10月26日 11:23
hanaさん、こんにちは。
調査員活動の苦労は、実際に担当する、もしくはそれを身近で見ないと、なかなか理解するのは難しいですよね。

私も先日、最終資料を役所へ提出しました。ウチの役所は非常にさばさばしたものでしたが、hanaさんがお住まいの地域のお役所担当者さんは、気配りのできる方でいらっしゃるようで、うらやましい限りです。調査活動で得るものって、報酬もありますけど、こうした活動に対するお礼、労い、そして集めたデータを政治家に有効活用してもらうことの方が大きい気がします。

間接的ではあっても、hanaさんも調査員活動を支えられたかと思います。
ご主人ともども、国勢調査の調査員業務、お疲れさまでした。
Posted by たいにー at 2015年10月27日 01:06
コメントを書く
お名前:

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント: [必須入力]


この記事へのトラックバック